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2013 年05 月01 日

Q: フィリピンで結婚生活を送っていましたが、離婚したくて単身帰国しました。日本でなら離婚出来ますか?

−イタリアについて追記あり−

A: ここでは、国際裁判管轄の点は措き、準拠法の点についてだけ言及したいと思います。
 フィリピンで結婚生活を送っていたということになりますと、離婚をする際に適用される法律(準拠法)は、フィリピン共和国法ということになります。既に日本に帰国されて住民登録されていたとしても、夫婦の婚姻生活にとって最も密接な関係を有しているのはフィリピンであると言わざるを得ないからです(法の適用に関する通則法25条・27条)。⇒この点、協議離婚の際の戸籍実務とは異なり、裁判における準拠法を考える際には、法の適用に関する通則法27条但書に基づいて容易に日本法が準拠法になるとは考えません。
 フィリピン法が準拠法となりますと、御存知の通り、同法では離婚が認められていないので、日本の裁判所であろうとも離婚が認められないかのように思えます。
 しかし、常にこのような結論を貫きますと、フィリピン人と結婚するときはフィリピン以外の国で生活することにするか、また、フィリピンで日本人以外と婚姻生活を送る場合は離婚が出来ないものと覚悟しなければなりません。しかし、離婚制度が確立している日本人にとって、かような結論は、その法感情に沿ったものとは言えないでしょう。
 それゆえ、例えば、夫婦の一方が日本人で、現在は日本に住所を有しており、二人の婚姻関係が完全に破たんし、その破綻の原因がフィリピン人側にあるような場合にまで離婚の成立を認めないのでは、我が国における公の秩序、善良の風俗に反する結果になるものと考えます。
 よって、フィリピン法の適用場面において、同法の適用が本邦の公序良俗に反するときは、同法を適用せず、裁判所がある日本の法律を適用し、日本民法に従って離婚を認めることがあり得ると考えて下さい(法の適用に関する通則法42条)。
 ただ気をつけなければならないのは「婚姻相手がフィリピン人で、フィリピンで婚姻生活をしていた=フィリピン法の適用場面である=公序良俗違反となる=フィリピン法ではなく日本法が適用される」などという形式的な論法が採用されているものではないということです。日本において公序良俗違反になるような場合にだけ、フィリピン法の適用が排斥され、日本法が適用されるに過ぎないという実質判断がなされていることを御理解いただきたいと思います。
 よって、御質問の回答は「離婚原因作出の事情や、日本での生活期間等に鑑みると、離婚を許容しなければ酷であるような場合には、日本の裁判所で離婚が認められ得ます」ということとなりましょう。

 本国での離婚が困難という点では、イタリアも類似しています。夫婦の一方が一定の犯罪を犯した場合や、裁判所が関与する形での別居を得た上でさらに別居をしなければ離婚ができません。
 それゆえ、上述したフィリピンの場合と同様に、本来、イタリア法の適用場面である夫婦の離婚については、同法の適用が本邦の公序良俗に反するときに限り、同法の適用を排斥して日本の裁判所にて、日本法に準拠した離婚が成立することがあり得ることとなります(2013/7/1)。

投稿者:よしの たいら
at 18 :45| 離婚−国際離婚 | コメント(0 )

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